「うつ病(鬱病)」とは、自分では原因がわからない憂うつな気分や、食欲や意欲の低下、不眠などが続くほか、頭痛などの身体的な苦痛をともなうこともある病気です。厚生労働省・みんなのメンタルヘルス(平成23年時点)(※1)のデータによれば、うつ病の患者数は、およそ95万人にのぼると報告されており、近年、増加傾向にあることを示しています。

この病気は、高齢者がかかることも決して少なくありません。しかし、高齢者の場合は、通常のうつ病にみられる症状の現れ方と少し違います。また、認知症と間違えられることも多く、非常に判断しにくいといわれています。

  • guide_icon_5
  • 高齢者のうつ病の特徴

高齢者のうつ病は、身体的な機能の低下や、それにともなう気力の衰え、身近な人物との死別、環境の変化などで発症します。また、鎮痛薬や血圧降下薬、抗がん剤、ステロイド剤などの一部が、うつ病を誘発することもあります。

高齢者のうつ病の場合、うつ病の一般的な症状をひと通り示す人は1/3から1/4しかいないといわれ(※2)、症状の一部が極端に強く現れる、もしくは症状の一部が極端に弱くなるなどの特徴があります。そのため、通常の診断基準では、発症を見落とされる可能性が大いにあります。

とくに、高齢者のうつ病の場合、抑うつ気分(憂うつ・気が沈む)といった精神的な症状よりも、身体的な症状(頭痛・腰痛・胃の不快感など)が目立ちます。これは、いわゆる不定愁訴(ふていしゅうそ)といわれるもので、なんとなく体調がすぐれないけれど、実際に身体のどこかが悪いわけではありません。しかし、その際に身体の痛みや不快感を大げさに訴えたり、時には妄想をともなうこともあります。また、残念ながら、ほかの年代のうつ病患者と比較して、自殺率が高いことも特徴です。

  • guide_icon_5
  • 高齢者のうつ病の症状

高齢者のうつ病の、主な症状は以下の通りです。しかし、高齢者ご本人も、周囲の方々も「高齢だから」と考え、発症に気づかず専門の医療機関を受診しないことが多いといわれています。

  • ・疲れて寝てばかりいる
  • ・引きこもりがちになる
  • ・物事に興味を示さなくなる
  • ・物忘れが多くなったと訴える
  • ・身体のあちこちの調子が悪いと訴える(不定愁訴・ふていしゅうそ)
    …頭痛・腰痛・胃の不快感・手足のしびれ・耳鳴り・動機・めまい・ふらつき・歯のかみ合わせが悪い・のどのつかえ・便秘・頻尿など
  • ・心気妄想による不安を訴える
    …自分が重篤な病気にかかってしまったと思い込む
  • ・貧困妄想による不安を訴える
    …自分が極貧状態になっていると思い込む
  • ・罪業妄想による不安を訴える
    …自分が重い罪を背負ったと思い込む
  • guide_icon_5
  • 高齢者のうつ病と認知症

高齢者のうつ病と、よく間違われやすいのが認知症です。認知症外来を受診する患者の5人に1人は、うつ病性障害であるともいわれています。(※3)

高齢者のうつ病には、口数が減り、意欲の低下、周囲への無関心のほか、物忘れ、反応や動作の低下、自分が置かれている状況がわからなくなる、といった認知症と見分けがつかない症状をみせるものがあります。このような場合、「うつ病性仮性認知症」と呼ばれています。

「うつ病性仮性認知症」は、うつ病が改善すると症状が消えますが、軽度の認知症に移行しやすいともいわれています。また、うつ病と認知症を合併していることもあります。

しかし、高齢者のうつ病と、認知症には大きな違いがあります。まず一つに、認知症にはうつ病特有の“憂うつ感”がそれ程ありません。また、高齢者のうつ病の場合、物忘れの自覚がありますが、認知症の場合はほとんど物忘れの自覚がありません。

以下は、「うつ病性仮性認知症」と「認知症」の違いです(※4参考)

うつ病性仮性認知症 認知症
症状の現れ方 急に 徐々に
憂うつ感 強い それほど強くない
自責の念 強い 弱い
不安感 強い それほど強くない
物忘れ自覚 ある ない
自分が置かれている状況の理解 軽度 ある
夜間の悪化 少ない 多い
抗うつ薬 有効 無効
  • guide_icon_5
  • 高齢者のうつ病への周囲の対応

たとえ高齢者が繰り返し身体の不調を訴えても、聞き流さず、丁寧に聞いてあげるようにしましょう。そのうえで、内科を受診し、とくに病気ではないにもかかわらず訴えが続く場合は、精神科、もしくは認知症外来を受診してみることをおすすめします。

うつ病か、認知症か判断しかねている状況で、精神科の受診を躊躇する場合は、できる限り一般的な医療機関ではなく、認知症の専門外来で受診することが大切です。

なぜならば、高齢者のうつ病を発症した状態で「記憶・認知機能テスト(9項目からなるテストで認知症を判断するもの)」を受けた場合、うつ病による注意力や意欲の低下で点数を下げ、認知症と判断されてしまうことがあるからです。認知症であるか否かをより正確に診断するには、「記憶・認知機能テスト」のみならず、日常生活の行動や、MRIほか複数の判断材料を用いた、専門医による診断が推奨されています。

また、精神科を受診した際、ほかの病気との関連を考慮し一般的な検査が行われますが、脳の病気とともに認知症を判断するために、SPECT検査(体内に注入したもので血流状態をみる検査)を用いられることもあります。

いずれにせよ、認知症とうつ病では薬の処方が異なるため、的確な診断が必要です。

なお、高齢者がうつ病になってしまった場合、周囲の対応は、一般的なうつ病患者と同じように接することがすすめられています。励まし過ぎるのも、「もっと気晴らしに出かけた方がいいよ」と行動を強要するのもタブーです。そして、無理強いではないかたちで、休養させることが重要です。

また、当事者においては、過去にこだわらず、これまでの人生を肯定的に考え、物事の発想を転換させることが大切だといわれています。

  • guide_icon_3
  • おしまいに

高齢者のうつ病治療は、基本的には薬物療法です。最近では、高齢者も安心して服用できる、副作用の少ないうつ病用のお薬がでてきているといわれています。

また、お散歩などの適度な運動を生活に取り入れたり、うつ病との関連が報告されているビタミンB群を、しっかり補えるような食事を意識的に摂ることも、改善に役立つといわれています。そして、その方にとって楽しめる時間をもち、大いに笑うことが、最大の予防となります。

どうしていいのかわからず、ご家族だけで悩みを抱え込んでしまっている場合には、地域包括支援センターなどに相談してみることも解決の糸口です。

(※1)「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス 精神疾患のデータ」より
www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html

(※2)(※3)「厚生労働省」より 東京いのちの電話の「相談員のための手引き」(1997年版.62頁)8章2項「精神障害者への対応の基本」を要約、加筆したもの
www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-siryou8-1.pdf