糖尿病は、インスリンの作用不足によって血糖値が通常より高くなってしまう病気です。糖尿病によりインスリンがほとんど分泌されない場合や、症状がすすみ服薬では血糖値をコントロールできない場合、糖尿病の薬にアレルギーがあるなどの場合には、インスリン注射で治療を行う必要があります。インスリン注射が必要な方が、老人ホームに入居する場合のポイントやリスクなどを説明します。

1.インスリン注射が必要な疾患

インスリンとは、血糖を下げる働きのあるホルモンのことです。血糖値とは、血液中のブドウ糖濃度のことです。食事によって血液中のブドウ糖が増えると、すい臓からインスリンが分泌され、血糖値が適正になるよう調整する働きがあります。 それを外部から補う治療法が、インスリン注射です。

インスリン療法が目指すのは、健康な人のインスリン分泌パターンの再現なので、適切なタイミング・種類・量で行う必要があります。患者さん個々の状態にあわせて、1~2種類のインスリンを、1日に1~4回注射していくようなかたちです。

なお、糖尿病には、以下のとおりインスリンを分泌するβ細胞が破壊され発症する「1型糖尿病」と、遺伝的な体質や、高脂肪食・高糖質食・運動不足などにより発症する「2型糖尿病」があります。

疾患名 主な状態
1型糖尿病(インスリン依存型) インスリンの分泌が絶対的に不足・欠乏
2型糖尿病(インスリン非依存型) 遺伝的素因と生活習慣によりインスリンの効きが悪くなる

主にインスリン注射で治療を行うのは、すい臓からインスリンがほとんど分泌されなくなる「1型糖尿病」ですが、「2型糖尿病」でも、インスリンの働きが悪くなったり、分泌が少なくなったりしたときに行います。また、血糖が高い状態が続き、その影響でインスリン分泌が悪くなり、さらに血糖が著しく高くなる悪循環(糖毒性)を起こしている場合にも、インスリン注射を使います。

日本人に多いのは「2型糖尿病」で、糖尿病患者の9割以上を占めるといわれています。

2.インスリン注射が必要な方の老人ホーム選びのポイント

糖尿病で気をつけなければならないのは、低血糖など急変時の対応や、糖尿病足病変(潰瘍・感染・壊疽)を予防するためのフットケアを行うことです。そして、何よりも1番大切なのは、血糖値を適正に保つことです。インスリン注射の継続と、食事の摂取方法などの検討が、とても重要になります。

患者さんご本人や、病院で指導を受けたご家族であれば、インスリン注射を行うことは可能です。しかし、マヒや認知症等で自己注射ができない場合、老人ホームでは、医師の指示を受けた看護スタッフがインスリン注射を行います。医療行為にあたるため、介護職員が行うことは禁止されています。

1日2~3回の注射を必要とする方であれば、24時間看護スタッフが常駐しているか、あるいは看護スタッフが日中勤務している老人ホームを選ぶといいでしょう。インスリン注射は食事前に行うため、その時間帯に、看護スタッフの勤務シフトが調整されているかどうかが重要です。

1日4回のインスリン注射が必要な方であれば、24時間看護スタッフが常駐する老人ホームを選ぶがほうが安心です。

また、糖尿病疾患は、インスリン注射とともに、継続的な食事療法や運動療法も必要とされています。糖尿病・インスリン注射の受け入れがあり、糖質制限食、カロリー制限食の対応ほか、運動などにも注力していることが、老人ホーム選びのポイントとなります。

3.インスリン注射が必要な方の入居条件

インスリン注射が必要な方に対する一般的な入居条件は特にありませんが、インスリンの回数による対応が可能かどうかで入居が難しい場合もあります。

著しく高血糖になった場合、口の渇き・たくさん水分をとる(多飲)・多尿・体重減少・昏睡といったことが生じます。治療法により低血糖を起こす恐れもあります。また、三大合併症を引き起こすと以下の症状があらわれ、生活の質(QOL)が著しく低下してしまいます。

【糖尿病網膜症】:視力の低下
【糖尿病腎症】:(腎不全まで進行した場合)夜間尿・浮腫(むくみ)
【糖尿病神経障害】:しびれや痛み・痛みなどの感覚が鈍る・立ちくらみ・胃もたれ・便秘など

とはいえ、日本は超高齢社会。糖尿病患者は年々増加しており、高齢になるほど糖尿病の危険度が高まるといわれています。糖尿病患者の受け入れが可能な老人ホームは確実に増えているので、入居される方の状態を伝え、まずは相談してみましょう。

4.老人ホームの入居リスク

老人ホーム入居中に糖尿病の症状が著しく悪化し、高度な医療ケアが常時必要となった場合、どんなに医療体制が整い、看護スタッフが常駐している施設であっても、退去せざるを得ない場合があります。

老人ホームは病気の治療を施す「病院」ではなく、あくまでも「生活の場」なので、入居を続けられたとしても、病院ほどのケアを受けることができないともいえます。

あらゆる状況に応じて適切な判断ができるよう、施設の医療スタッフとよくコミュニケーションをとっていくことが大切です。

5.おしまいに

糖尿病は、重大な合併症を引き起こしやすい病気です。インスリン注射を必要とする方が老人ホームを選ぶ際は、医療体制が充実した老人ホームを選ぶことが基本です。

また、インスリン注射により感じるストレスは決して少なくないので、環境やサービスなど、ストレスケアが充実した老人ホームもおすすめです。