認知症が進んでからあらわれる症状に「介護拒否」があります。家族やヘルパーが介護をしようとしても、言うことを聞かず拒否をするようになるのです。世話を焼かれることに対して怒ったり、薬を飲むのを嫌がったり、入浴を拒んだり、その行動はさまざまです。衛生面や薬の管理など本人の体調に影響が出ることもあり、介護者を困惑させる症状のひとつです。また、拒否が強くなると暴力が見られることもあります。

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  • 原因は?

認知症は脳の細胞が壊れ、その機能が低下することで起こります。記憶力や理解力、判断力が鈍り生活に差し支えるようになります。その結果、「薬が病気を治す」ということを理解できなくなり、服薬を拒否するようになったり、「お風呂に入ると清潔になって気持ちいい」ということを忘れてしまって入浴を嫌がったりするようになります。「過食」は食事をしたことを忘れることで起こりますし、食事が自分にとって必要なのか分からなくなれば食べさせようとしても拒食します。認知症になると脳の満腹中枢の機能が崩れてしまうことも原因のひとつです。家族が留守の間に冷蔵庫の中の物を勝手に食べてしまうという行動は、このために起こります。また、トイレやオムツなどの排泄介助を嫌がるのは尿意や便意の感覚が薄れることが原因です。「性格が頑固に変わってしまった」と捉えられる患者さんもいますが、それも感情や理性のコントロールができなくなるという症状のひとつです。

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  • 患者の心理

脳の萎縮によって感情が上手く働くなることが、さらに患者の行動に影響を及ぼします。お風呂の効果を忘れるばかりでなく「人に肌を見られることに抵抗がある」「知らない人に体を触られたくない」「服を脱いだり着たりするのが面倒」という感情が先に働き、頑なに入りたくないと訴えることがあります。薬についても、その効果を忘れているだけでなく「苦くて飲みにくい」という体験が体に残っていることも影響していることも多いようです。着替えを拒むのも、「洋服を盗られるのでは」という不安な気持ちや「裸を見られることが恥ずかしい」という羞恥心が働いている場合があります。トイレやオムツ交換の拒否も同様で、「他人に下の世話を頼むのが恥ずかしい」という感情から拒否することがあるほか、「体を動かすと痛みがある」という場合もあります。

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  • 対処法は

どの症状も、無理強いをするのは逆効果です。拒否していたことを余計に頑なにさせてしまうだけです。介護をしようとしている家族は戸惑いパニックになってしまうかもしれませんが、同じ様にヒートアップすると、症状は酷くなりお互いに負担をかけるだけです。責めたり怒ったりするのは「怒られた」という悪いイメージが残ってしまうため厳禁です。特に暴力があると家族も力で抑えてしまおうとしがちです。しかし一番効果的なのはしばらく離れて様子をみることです。

そして、介護をするときに注意することは「婉曲に話しかけながら行う」ということです。例えばいきなり「お風呂に入りましょう」「トイレに行きましょう」と言われると、健常者でも「いきなりなんで?」となるでしょう。認知症の方も同じです。いきなり物事を強制されるとそれがストレスとなってしまい、もうその言葉は耳には入ってこなくなってしまいます。そこで患者が興味のあることを話題にして話しかけ機嫌が治ったときにさりげなく勧めてみる、という距離感が良い方向に働きます。例えば、「今日も暑いですね」といった世間話から始めて、少し話が弾んだ後に「暑くて汗をかいているなら、お風呂でもどうですか?」と自然な流れで誘うことです。「急に言わない」ということも大切です。お風呂に入る10分前に「10分経ったら入りましょうね」と声をかけるだけで患者の心証は大きく変わります。10分の間にトイレを済ませたり気持ちの準備をしたりして、スムーズに行動できる可能性が高くなります。スケジュール表を作っておくというのも有効な方法です。

トイレや着替えの介護拒否が「恥ずかしさ」からくることは説明しました。基本的に介護者が異性だとこの傾向は強く見られます。この場合は介護者を変えるということも効果的です。性別だけの問題ではなく性格の不一致の可能性もあります。「世間話声かけ作戦」でも改善が難しそうであれば、ヘルパーなど他の人に変わってもらうというのもひとつの手段です。

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  • おさらい

認知症であらわれる介護拒否の症状は、脳の機能が低下することが原因で起こります。薬の概念を忘れて服薬を拒否する、入浴の効果を忘れて着替えから拒む、などが代表例です。それに加えて患者に芽生える「自分でできることが少なくなってきて歯がゆい」「介助者が苦手」「介助者に見られるのが恥ずかしい」などの感情が介護を受け入れることを邪魔します。介護する側としては、決して感情的にならず「病気のせいだ」と冷静に対応することが求められます。「端的に言わない」「急に言わない」などのポイントを抑えれば、上手く意思疎通を図れるようになるかもしれません。ゆっくりと穏やかに患者と接することを心がけましょう。