自分の体験や過去の記憶が抜け落ちてしまう記憶障害。アルツハイマー型認知症で最初にあらわれる症状としても有名です。誰にでも忘れてしまうことはあります。ただし加齢による物忘れは、全体の一部分だけを忘れていることが多く、ヒントを与えると「あ、忘れていた」と思い出すことができます。しかし記憶障害の場合、忘れたという自覚そのものがなく、経験したことそのものを忘れてしまいます。そのため、いくらヒントをもらっても思い出せないという明確な違いがあります。昔のことより最近のことから忘れていくというのも記憶障害の特徴です。自覚がないため、日常生活にも支障をきたしてしまいます。

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  • 原因は

分かりやすい原因は、事故で頭を打ったり脳卒中にかかったりして脳が傷つくことです。ほかにも遺伝因子やストレスの影響も指摘されています。特にストレスは脳を委縮させてしまうとされています。別名ストレスホルモンとも呼ばれる「コルチゾール」というホルモンが、短期記憶をつかさどる「海馬」を縮ませてしまうのです。過度なストレスを受けた経験は無意識の内に脳が記憶から切り離そうとしてしまい、それが記憶障害につながるとも考えられています。しかしこれらは記憶障害の原因のごく一部で、アルツハイマー型認知症に代表される記憶障害の大部分は、まだ原因は解明されていないといっていいでしょう。

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  • 短期記憶障害

記憶障害には、大きく分けて5種類あります。短期記憶障害は認知症でよくみられる症状で、新しいことを覚えられなくなることです。海馬に収められた記憶は、短い時間で忘れ去られるか長期記憶に移行されます。海馬が正常に動かずにこの短期記憶すら覚えられない状態が短期記憶障害です。今日の日付が分からない、一日の中で何度も同じことを聞く、水の出しっぱなしや火のつけっぱなし(出したことや、つけたことを忘れてしまう)などの症状がこれに当たります。

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  • 長期記憶障害

反対に長期記憶とは、普段は考えていなくても人との会話や古い写真を見たなどのきっかけで思い出すことのできる昔の記憶のことです。たとえば「通った学校の名前」「自分の職業」「家族の顔」など、一般の人であれば亡くなるまで持ち続ける記憶です。この記憶が抜け落ちてしまうのが長期記憶障害です。認知症では、はじめに短期記憶障害があらわれ進行すると長期記憶障害も起こります。家族の顔や名前が分からなくなったり、結婚したことを忘れてしまったりと、非常に辛い症状です。

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  • エピソード記憶の障害

エピソード(体験したこと)そのものを忘れてしまう障害です。家族や友人から「ここに一緒に行ったね」「この時こうだったね」と言われても、その体験自体の記憶が抜け落ちているものです。障害だと気付かれない場合もあり、周囲と話がかみ合わなくなって人間関係が悪化することもあります。

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  • 手続き記憶の障害

手続き記憶とは、「身体が自然に覚えている」というものです。たとえば料理や洗濯、アイロンがけなどの家事が代表例です。今まで当たり前にできていたことができなくなると、本人はショックを受けがちです。ただし身体で覚えたことは比較的保たれている傾向があるので、できることを探して生きがいにつなげるケアを行うこともあります。

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  • 意味記憶の障害

言葉の意味を忘れてしまう障害です。適切な単語や人名が出てこなくなくなるため、会話の中で「あれ」「それ」などの表現が多くなることが特徴です。語彙(ごい)が減っていくので意思疎通が難しくなってしまいます。

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  • なってしまったら

記憶障害の多くは本人に自覚がないことがほとんどです。つまり本人にとっては体験そのものが存在しないため、本人が認識している世界と周囲の人が認識している世界にズレが生じます。「水道の水を出しっぱなしにした」ということが事実であっても本人にはその記憶がないため、周囲の人に指摘されても「嘘」だと思ってしまうのです。そこで「いやいや、出したでしょ」と訂正してしまうと、本人からすると「言動を否定された」ことになってしまいます。すると不安や不信は増大してしまいます。ここは周囲の人が本人に合わせて言動を一度受け止めることが、対応の第一歩となります。

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  • 治療は

記憶障害は専門の医療機関でないと適切な診断ができない可能性があります。早めに本人の同意を得て受診するためにも、患者本人と周囲の家族との信頼関係が重要な意味を持ちます。医療機関では症状や状態を具体的に説明する必要があり、相談も重ねていかないといけません。そこで初めて本人に合った薬を適切な分量処方してもらうことができます。記憶障害は基本的に進行性の障害で、明確な治療法は残念ながらありません。しかし、進行を遅らせることのできる薬は存在します。

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  • おさらい

記憶障害には、最近の記憶ができなくなり同じことを何度も聞いてしまう短期記憶障害や身近な人の顔や名前が分からなくなってしまう長期記憶障害など5つの種類があります。原因は様々ですが、加齢のほか事故による外傷やストレスによるものもあります。進行性の病気のため完治することはありませんが、薬で進行を遅らせることはできます。ただし早めに専門医の診断を受けて処方を受けることが絶対条件ですので、患者本人と周囲の人との信頼関係が重要なのは言うまでもありません。