高齢者の虐待

高齢者の増加にともない、日本は多くの問題に直面しています。そのなかのひとつが「高齢者の虐待」。この問題は家庭や介護施設などで表面化しはじめ、大きな社会問題へと発展しました。そのため、平成18(2006)年には高齢者虐待防止法が施行され、それに基づき全国の市町村および都道府県が対応を行っています。

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  • 高齢者虐待防止法とは

高齢者虐待防止法とは正式名「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」の通称です。高齢者に対する虐待が深刻化している状況を受け平成17(2005)年11月1日に国会において成立し、平成18(2006)年4月1日より施行されました。

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  • 高齢者の虐待の定義

高齢者虐待防止法では、高齢者虐待を以下のように分別しています。

1.養護者(高齢者の世話を行う家族・親族・同居人など)による高齢者虐待
2.養介護施設従事者等(高齢者施設や要介護事業の業務に従事する職員)による高齢者虐待

また、高齢者虐待防止法で定義づけられている虐待行為の種類は「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」「介護・世話の放棄・放任(ネグレスト)」の5つです。

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  • 「身体的虐待」とは

殴る蹴る、ぶつける打つ引っ掻くなどの暴力によって高齢者のからだに外傷が生じること、または外傷が生じるおそれがある暴力を加えることです。そのほか、ベッドに縛りつけたり、からだを拘束したり、薬を過剰に服用させたり、食事を無理に食べさせたりなども身体的虐待にあたります。

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  • 「心理的虐待」とは

高齢者に対し暴言を吐いたり、侮辱したり、無視したりなどして、高齢者にストレスを与え心理的に傷つけることです。厳しく命令することや、脅迫することなども心理的虐待にあたります。

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  • 「性的虐待」とは

高齢者に対し無理やりわいせつな行為を行うこと、もしくは高齢者に無理やりわいせつな行為をさせることです。

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  • 「経済的虐待」とは

高齢者の世話をする人間が、高齢者の財産などを勝手に扱うことです。金品を奪ったり、所有物を不当に処分して利益を得たり、資産配分を強要したりなどです。また、高齢者の交友関係を制限することも経済的虐待にあたります。

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  • 「介護・世話の放棄・放任(ネグレスト)」とは

からだが不自由な高齢者に十分な食事を与えない、必要な薬を与えない、長時間放置し世話を怠る、もしくはまったく世話を行わない(放棄放任・ネグレスト)ことです。養護者以外の同居人による虐待行為を見て見ぬふりをすること、身のまわりを不衛生なまま放置すること、必需品を取り上げることもこれにあたります。

ただし、この虐待については故意に行われる場合と、介護者が気づかないうちに発生している場合があります。そのほか、貧困など経済的な理由で十分な世話ができないという場合もあります。

なお、介護者側が行う虐待の放棄放任(ネグレスト)とは別に、高齢者自身が行うセルフネグレクトというものがあります。
セルフネグレクトは一般的に自己放任と呼ばれるもので、正常な生活を送る意欲をなくし、そのために必要な行為を怠ることです。つまり、高齢者自身が薬の服用や食事を怠り、身のまわりを清潔に保たず、不衛生な環境のまま生活している状態です。実は虐待(ネグレスト)よりも多くおこっていると言われていますが、アルツハイマーやうつ病などの病気は関係していないため、明確な理由はわかっていません。

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  • なぜ虐待がおこるのか

厚生労働省による平成27年(2015)度の調査結果では、要介護施設従事者等による虐待判断件数は408件で、前年に比べ108件の増加。養護者による虐待判断件数は15,976件で、前年に比べ237件の増加、それぞれの相談・通報件数もかなりの増加率であることがわかりました。ではなぜこのように虐待は数多くおこってしまうのでしょう。

家庭内で高齢者の虐待がおこる多くのケースは、介護などにより養護者のストレスが溜まり、それを発散できず、周囲に相談もできないといった状況に陥ることです。介護を行うのは本当に大変なことですが、その大変さは実際に経験した人でなければわかりにくいものです。そのため養護者は世間から孤立し、追い詰められてしまうことが多いのです。
また、介護施設などでおこる虐待は、職場環境の悪さが要因になっているとも考えられています。人手が足りず休めない、大変なわりには賃金が低いなどといった劣悪な状況が、虐待というかたちになってあらわれてしまうのです。

しかし、だからと言って、からだも立場も弱い高齢者へその矛先が向かうのは許されることではありません。とはいえ、養護者の孤立や、介護現場の劣悪な職場環境といった根本的な問題が改善されなければ、高齢者の虐待が減っていくのは難しいでしょう。

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  • さまざまな取り組み

国は、高齢者の虐待が増加しつづける現状を受け、虐待通報窓口の周知徹底や、養介護施設等に外部からの目(地域住民や介護相談員など)を導入することで実態把握の強化に取り組んでいます。また、養介護施設等において、職員に対し適切な研修を行ったり、職員へのストレス対策を行ったり、意見交換の場を設けたりなどで、介護関係者の対応力強化に力を入れています。

そのほか、在宅介護において介護保険サービスを利用せず虐待の深刻度を高めている状況を踏まえ、介護保険サービスの適切な利用の促進を行い、在宅介護者への支援を図ろうとしています。

なお、高齢者虐待の相談や通報窓口は、市町村や都道府県のホームページ、東京都福祉保健局のホームページなどに設置されています。

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  • おしまいに

「虐待」とはいえ、実はささいなことの積み重ねでおこるケースも少なくありません。何度も「ごはんはまだ?」と聞かれる介護者の方が、「さっき食べたばかりでしょ」と答えてしまうのは仕方のないこと。しかし、その対応を受けた高齢者の方は「また怒らせてしまった……。」と落ち込んでいる場合も多いのです。また、「危ないからダメ!」と高齢者を想ってとった言動が、逆に高齢者の自由をうばい、身体的もしくは精神的な虐待につながってしまうこともあります。それは、養介護施設などにおいても同じ。人手不足で教育が行き届かず、現場で適切な対応が成されていない場合があるからです。

もちろん先述したとおり国はさまざまな取り組みを行っていますが、実際のところ、それが追いつかないほど事態は深刻です。

だからこそ、全国に広がる介護者支援団体も、地道にさまざまな取り組みを行っていることを知っておきましょう。家庭で介護をしていると、精神的にも経済的にも疲弊してしまいます。しかし探してみると、意外に身近なところに介護支援の場は存在しています。そこで、ぜひ苦しんでいるのは自分だけじゃないことや、色々なかたちの支援があることを気づいてください。各介護者支援団体は、相談できる機会や、交流の場、サポーターの養成や、行政機関への要望書提出、連合会の発足、フェスの開催や、セミナー、調査ほか、さまざまな取り組みをおこなっています。

もちろん、介護職に従事している方も、職員同士で意見交換をしたり、サポートし合ったりすることが大きな力となるでしょう。高齢者の虐待をなくしていくためには、身内、職員かかわらず、介護を行う側の人が“ひとりで抱え込まないこと”が非常に重要なのです。

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  • おさらい

高齢者虐待防止法で定義づけられている虐待行為の種類は「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」「介護・世話の放棄・放任(ネグレスト)」の5つです。

高齢者虐待防止法とは、平成18(2006)年に施行された「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」のことです。

高齢者の虐待が起こる原因は、家庭内の場合は介護などによりストレスが溜まり、それを発散できず、周囲に相談もできないといった状況に陥ることでおこります。

介護施設などでおこる虐待は、人手が足りず休めない、大変なわりには賃金が低いなどといった劣悪な職場環境が引き起こしているとも考えられています。

国は高齢者の虐待への取り組みとして、虐待通報窓口の周知徹底や、養介護施設等への地域住民や介護相談員の導入、職員への適切な研修、職員へのストレス対策、意見交換の場を設けることなどを行っています。そのほか、介護保険サービスの適切な利用の促進を行い、在宅介護者への支援を図ろうとしています。

高齢者虐待の相談や通報窓口は、市町村や都道府県のホームページ、東京都福祉保健局のホームページなどに設置されています。

ほか、各介護者支援団体は、相談できる機会や、交流の場、サポーターの養成や、行政機関への要望書提出、連合会の発足、フェスの開催や、セミナー、調査ほか、さまざまな取り組みをおこなっています。

■問い合わせ窓口:地域包括支援センター、市区町村