認知症は、脳の障害によって認知機能が低下し、日常生活や社会生活を営めなくなってしまう状態をいいます。その進行とともに、さまざまな症状が出てきますが、夜間の不眠・昼寝が増える「昼夜逆転」状態になることも、症状のひとつです。

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  • 認知症による昼夜逆転とは

60歳以上になる高齢者の約3割が、何らかの睡眠障害を抱えている(※1)といいます。誰でも年齢を重ねていけば、シワや白髪が増え、筋力や体力が落ちて老眼にもなりますが、それと同様に、睡眠も変化していくのです。睡眠が浅くなるため、夜中に目が覚め、そのあと眠れなくなってしまったり(中途覚醒)、朝早く目が覚めて、そのまま眠れなくなったり(早朝覚醒)といった現象に悩まされることがあります。

しかも、認知症になると、さらに睡眠が浅くなるため、昼寝が増えて夜間は眠らず興奮状態になるという、昼夜が逆転した不規則な睡眠・覚醒リズムになってしまいます。これが、認知症による「昼夜逆転」です。重度の認知症の人になると1時間でさえ連続して眠ることが難しくなるともいわれています。

認知症の症状は、脳の神経細胞が壊れることで生じる「中核症状(基本症状)」と、その中核症状にさまざまな要因(性格・環境・心理状態など)が加わって生じる「周辺症状(行動障害、精神症状)」があります。「認知症による昼夜逆転」は、その周辺症状に含まれます。BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とも呼ばれています。

(※1)東京慈恵会医科大学医師らによる論文『高齢者の不眠(2012)』より

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  • 認知症による昼夜逆転の症状

認知症による「昼夜逆転」の基本的な症状は、夜の睡眠が浅くなるため、昼寝が増え、不規則な生活リズムに陥ること。基本症状に性格・環境・心理状態などの要因が加わって生じるものなので個人差がありますが、この「昼夜逆転」により、以下のような症状があらわれます。

・夜中にうろうろ歩き回る
・興奮して騒ぐ、大声を出す
せん妄の状態になる

なお、「せん妄」とは、意識障害が起こり”もうろう”としてしまう状態のこと。睡眠障害により、しっかりと目が覚めきれず出現する場合があります。幻覚や幻聴があり、記憶があいまいになったり、会話のつじつまが合わなくなったりと、非常に混乱した状態になります。そのため、不安感から興奮しやすく、攻撃的になって暴言・暴力が出ることもあります。

ただし、認知症ではなく「一時的な『せん妄』症状が出ている場合」もあります。ゆるやかに進行する認知症とは違い、一時的な「せん妄」の場合は、ある日突然発症し、いずれ治ります。

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  • 認知症による昼夜逆転の原因

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認知症による昼夜逆転は、本人の苦しさはもちろんのこと、夜中に何度も起こされる介護者にとっても大きな負担になります。その原因として考えられるのは、次のとおりです。
・体内時計の調整機能が失われている
・日中の活動が少なくなっている
・夜間に頻繁にトイレへ行きたくなる
・からだの不快感(関節リウマチ・かゆみ・胸の苦しさ・床ずれなど)で眠れない
・夜に1人で寝ていると寂しく、不安になる
・部屋が暗いと不安になって眠れない
・服用している薬によって夜の寝つきが悪くなる
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  • 認知症による昼夜逆転への対処法・予防法

認知症による昼夜逆転の対処法・予防法として、考えなければいけないのは、認知症の方の「睡眠を保つ」「生活リズムを整える」ことです。具体的に挙げると、次のようになります。

1.午前中に日光を浴びる

午前中に日光を浴びる イメージ
午前中、特に朝日を浴びると、神経伝達物質の一種「セロトニン」が分泌され、大脳の覚醒レベルを最適な状態にしてくれます。また、セロトニンは睡眠ホルモンといわれる「メラトニン」の原料にもなっています。したがって、朝日を浴びて分泌されたセロトニンのおかげでメラトニンが夕方から増え始め、脈拍・体温・血圧などを低下させて、自然に睡眠へと向かわせてくれます。

しかし、午前中しっかり日光を浴びず、セロトニンが不足してしまうと、睡眠ホルモンのメラトニンが十分に生成されなくなります。すると、寝付きが悪くなる、体内時計が乱れるなどの不眠症状が現れてしまうのです。

2.日中の活動量を増やす。

日中の活動量が少ないと、心地よい睡眠に必要となる「適度な疲労感」を得られないため、寝つきが悪くなってしまう場合があります。例えば自宅の周辺を少し散歩するだけでも適度な運動になり、適度な疲労感を得られるはずです。戸外に出ることは気分転換にもなるので、ストレス解消にもつながります。また、それによって生活にメリハリが生まれるでしょう。

3.規則正しい生活リズムに

心地よい睡眠を得るためには、就寝・起床・食事時間を毎日規則正しくすることが大切です。そうすることで生活リズムが整うからです。かといって、ガチガチに厳しく時間を守るわけではありません。朝起きたら太陽の光を浴びて、日中はゆっくり散歩するなどしてからだを動かし、夕方から静かな環境で過ごします。そして、夕食後ゆっくりお茶の時間をとり、ゆったりした気持ちで就寝するといった具合です。無理なく活動と休息のリズムを作りながら、心地よい睡眠につなげることが重要です。

4.寝室の環境を整える

高齢者の方は、振動に対して敏感に反応したり、部屋が暗すぎると不安になったりする場合があります。そのため、寝室は静かな環境を作り、適度な照明で安心できる環境を整えることが必要です。また、高齢者の方はちょっと暑いと体温がこもり、寒いとすぐ冷えてしまいます。体温が一定に保たれるよう、室温を調節することも大切です。

5.入浴の支援をする

入浴によりからだが温まると、汗をかくので深部体温が下がり、心地よい疲労感も得られるため、寝つきやすくなります。また、ゆったりとした入浴で心地よい休息がとれると、興奮や暴力を軽減できるとも考えられています。足浴だけでも効果的です。

そのほか、以下も気をつけましょう。ただし、薬などに関しては、かかりつけの医師にご相談ください。

・できるだけ昼寝を避ける(日中は夜就寝する寝床で昼寝しない)
・日中は老廃物の排泄がよくなるよう水分を多めにとる
・夕方以降は”過剰に”水分を摂取しない
・アルコール・カフェイン・ニコチンの摂取を避ける
・眠りを妨げるような痛みがないか配慮する
認知症治療薬を午後以降に服薬するのを避ける(覚醒してしまう場合あり)
・就寝前に糖分を多くとらない※(スイーツは就寝する2時間前まで)
※インスリンの分泌でアドレナリンが分泌され脳の興奮が高まるため

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  • おしまいに

夜眠れない、からだに不快感があり、不安な気持ちがあって、意識がもうろうとする……。そんな状態になったら、誰だってつらいもの。そして、そういった症状がある認知症の高齢者を、介護している方の苦労も多大なものです。

認知症のご本人とご家族が、地域住民の方や、介護・福祉・医療の専門家と身近な場所で集い、交流できる場「認知症カフェ」も全国に広がっています。とくに介護する方は決してひとりで抱え込まず、そういった場に足を運ぶか、地域包括支援センターや市区町村窓口にご相談ください。娘という立場で介護をする方が集まる「娘サロン」や、息子という立場で介護をする「息子サロン」、独身者が集まる「シングル介護者交流会」、「男性介護者の会」といった場もあります。

また、軽度の認知症高齢者であれば、家庭に近い環境で共同生活を送れる民間の施設「グループホーム」に入所するという選択肢もあります。認知症高齢者の増加とともに、グループホームの数も増加傾向にあり、利用者も増えています。高齢者施設に詳しい老人ホーム紹介事業者などにご相談してみてはいかがでしょう。グループホームに限らず、認知症の方でも入所できる有料老人ホームなどの施設情報も得られるはずです。

なお、認知症による昼夜逆転への対処法・予防法は、症状を良い方向に向かわせてくれますが、すぐに効くわけではありません。しかし、根気強く続けること厚生労働省(e-ヘルスネット)はすすめています。

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  • おさらい

ただでさえ睡眠障害が起きやすい高齢者が認知症になると、さらに睡眠が浅くなるため、昼寝が増えて夜間は眠らず興奮状態になるという、昼夜が逆転した生活リズムになってしまいます。それが、認知症による「昼夜逆転」です。症状は以下のようなものがあります。

・夜中にうろうろ歩き回る
・興奮して騒ぐ、大声を出す
・せん妄の状態になる※

※ただし、認知症ではなく「一時的な『せん妄』症状が出ている場合」もあります。

原因として考えられるのは、体内時計の調整機能が失われている、日中の活動が少なくなっている、夜中のトイレが頻繁にある、からだの不快感があるなどです。

対処法・予防法は、午前中に日光を浴びる、日中の活動量を増やす、規則正しい生活リズムにする、寝室の環境を整える、ゆったりと入浴することなどです。

■問い合わせ窓口:地域包括支援センター、市区町村役所、各施設、老人ホーム紹介事業者
■医療機関:神経内科、精神科、脳神経外科、認知症外来

(参考文献)
・認知症介護情報ネットワーク(DCnet)>研究報告書>報告書詳細
https://www.dcnet.gr.jp/support/research/center/detail.html?CENTER_REPORT=228

・不眠・睡眠障害・昼夜逆転の対応 認知症ねっと
https://info.ninchisho.net/symptom/s140

・不眠・睡眠障害・昼夜逆転の対応 介護の無料相談&ハウツー「安心介護」
https://ansinkaigo.jp/knowledge/3011

・認知症による「昼夜逆転」や不眠…高齢者の生活リズムの乱れを直すには 介護ニュース 介護ぱど
https://p-kaigo.jp/news/15408.html

・高齢者の不眠 認知症における睡眠障害(医学論文)
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_49_267.pdf

・高齢者の睡眠 e-ヘルスネット 情報提供
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html