認知症の中核症状のひとつに、理解力や判断力の障害があります。物事を理解したり適切な判断をしたりすることができなくなるということです。脳血管性認知症であれば一定の能力が保たれる事もありますが、アルツハイマー型の場合は全般的に能力が低下してしまいます。症状自体は発達障害や知的障害、アスペルガー症候群やうつ病などでもみられますが、ここでは認知症患者の場合について紹介しましょう。

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  • 原因は

これらの能力低下は、脳の細胞が壊れる事によって起こります。アルツハイマー型認知症の原因は具体的にはまだ解明されていませんが、遺伝的要因や環境因子などさまざまなものが複雑に絡み合っていると考えられています。その結果、脳にアミロイドβやタウと呼ばれる特殊なたんぱく質が溜まり、神経細胞が死んでしまい数を減らしていきます。すると神経を伝えることができなくなり、脳が委縮してしまうというメカニズムです。

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  • 理解力が足りなくなると

理解力が低下しだすと、複雑な話や展開の早い話についていくのが難しくなります。抽象的な言葉をイメージすることも困難になり、例えば「洋食と和食どちらがいいか」という質問を上手く理解できなくなります。「ハンバーグと焼き鮭ならどちらがいいですか」や「夕食はカレーにしませんか」など、選択式だったりyes/noで回答できたりする質問の方が意思疎通が容易になります。「元気ですか」と聞かれても、「元気」がどういう状態なのかを考えるのに時間がかかってしまいます。しかし「体温が36度台か」ということなら理解できる、といった具合です。

そして理解力が低下すると、頭の中で物事を組み立てて考えて目の前のことと結びつけることが難しくなります。「血圧が高いから塩分を多く取ってはいけない」ということは分かっていても目の前にある塩辛い食べ物を食べてしまう、などです。「食べてはいけない」ことと自分の置かれている状況がリンクしないのです。また、目に見えない部分で起きていることを理解できなくなり、金融機関のATMや駅の自動改札機が使えなくなることもあります。改札機に切符を吸い取られた瞬間「見失って」しまうのです。

会話や行動についてのハードルが上がるだけでなく、内容を理解できないまま契約を結んだり、保証人になったり、高価な商品を買ってしまったりと大きなトラブルになる危険性もはらんでいます。介護の現場でも、必要なサービスと自分の状態とを照らし合わせることができなくなるので、リハビリを頑なに拒否するなどの言動が出てきます。周囲の人は混乱し、怒りを覚えてしまうこともあるでしょう。

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  • 判断力が低下すると

判断力が低下すると、「善悪」や「安全か危険か」などさまざまな判断が困難になります。これは「実行機能の障害」というくくりにされています。実行機能とは「目的を持った一連の行動を成し遂げるために必要な機能」を定義されています。この機能に障害が起きると「行動の目的が定まらない」「成し遂げられない」など、行動に支障をきたします。例えば、青信号になるまで待つということができずに赤でも渡ってしまったり、他人の家の敷地内に立ち入ってしまったりします。買い物をした商品の選別ができず、冷蔵庫に洗剤なども食品と一緒に入れてしまうのもこれに該当します。買い物の際にお金を払うことをせず、商品をその場で食べてしまったり、線路の中に入ってしまったりするなど、事件や事故につながってしまう危険性も大いにあります。

周囲の人としては常に目を離せず、ストレスがたまるかもしれません。しかし本人は何も分からなくなっているわけではなく、場所やタイミングといったシチュエーションに対しての理解と判断が難しくなっているのです。そのため「ここは道路ではありません」「まだお金を払っていないので払いましょう」と注意を促せば、その意味は理解できることが多いのです。単に「徘徊」とレッテルを貼らずに、きちんと説明をすれば自尊心を傷つけずに危険な行動を防ぐことができるかもしれません。大切なことは、相手を否定しないことです。気付きを与える工夫をしてみるといいかもしれません。

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  • 周りの対応は

認知症になると、抽象的な表現が苦手になりますので、あいまいな表現は止めて具体的に分かりやすく話しましょう。「病院に行く」ではなく「お医者さんに診てもらう」と言い換えるのが有効です。「病院」が何をするところか分からなくなってしまうためです。また、暴言を言われても本人は悪いことだと思っていないということを忘れずに落ち着いて対応してください。判断力が低下している場合は1人での外出は極力避けさせた方が安心です。たとえ体が元気でも、誰かが付き添っていくべきです。もちろん家族だけでフォローするのは限界がありますので、近所の人や民生委員などに認知症であることを知らせておくことも重要です。

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  • おさらい

認知症になると、理解力や判断力が低下してしまいます。理解力が低くなると「元気ですか」「何がいいですか」といった抽象的質問に答えられなくなったり、ATMなどの機械が使えなくなったりします。判断力が低下すると、売っている商品を持って帰ってきてしまったり他人の敷地に入ってしまったりと善悪の判断ができなくなってしまいます。周りの人は「本人に悪気はない」ことを十分に理解して、冷静にフォローすることが求められます。